■品質管理基盤

(1) 品質管理に関する基本方針

 当監査法人は、監査の品質管理規程において、社員会で選任された事務所代表者(以下、最高経営責任者)は、法人の品質管理システムに関する説明責任を含む最終的な責任を負うこととしています。また、法人の品質管理システムの整備及び運用に関する役割を担う部門として品質管理部を設置し、社員会で選任された品質管理担当責任者を部門の責任者として、主として品質管理業務に従事することを定めています。品質管理担当責任者は、過去から継続して監査責任者として様々な業種の上場会社の監査業務に従事しており、品質管理に関する十分かつ適切な経験及び能力を有し、かつ、品質管理に従事するための十分な時間を確保しています。品質管理部には品質管理担当責任者を補助する2名の担当者を配属しています。
 また、法人の組織に業務管理部、教育研修部、人事部、IT部を設け、各々主な担当社員と補助者を置き、監査日程の管理、監査チームの編成、情報セキュリティや監査調書の電子化対応、社員・職員の採用・研修などの品質管理活動を実施しており、事務所全体で監査品質の向上に取り組むことを基本方針としています。

(2) 品質管理システムの主な構成要素

リスク評価プロセス
 当監査法人の主体的な品質管理を可能とするために、品質管理システムの項目ごとに、品質目標を設定し、当該品質目標の達成を阻害しうる品質リスクを識別して評価を行い、評価した品質リスクに対処するための方針又は手続を定めています。
 リスクの識別と評価のプロセスは、反復的かつ累積的なプロセスであり、モニタリング及び改善活動の結果、外部の検証の結果などから、当監査法人やその業務の性質及び状況の変化を踏まえた品質目標の追加、品質リスクや対応の追加又は修正の必要性を示唆する情報を識別した場合は、その情報を検討し、適切な場合には、 追加の品質目標の設定、又は既に事務所が設定した品質目標の修正を行います。

ガバナンス及びリーダーシップ
 品質管理システムの基礎となる環境を確立するためには、最高経営責任者が組織的に監査の質を確保するという意識を持ち、品質管理体制の構築に向けてリーダーシップを発揮することが重要となります。そのため、健全な組織風土の醸成、最高経営責任者等の品質に関する説明責任を含む責任の明確化、当監査法人において最高経営責任者等が果たすべき主導的役割等に関する品質目標を設定しています。
 当監査法人にとって最優先されるべきは、「監査品質の合理的な確保」であり、監査の品質の持続的な向上に向けて最高経営責任者は、定期的に開催する全員参加の研修会や全体会議等で「監査品質管理の重要性」や「監査品質向上に向けた取組み」、「職業的懐疑心の発揮」等を繰り返し語っており、監査の品質を最優先するためにどのような体制をとるべきかについて協議しております。
 また、監査品質の最も重要な要素は「人」であり、「人がどういう環境の下で働いているのか」ということが、監査品質に大きな影響を与えます。社員・職員の成長を促進し、モチベーション高く働き、職業的懐疑心や職業的専門家としての能力を十分に保持・発揮させるよう、年齢や性別、勤続年数や雇用形態を問わない実力主義と、評価が公平・公正に行われ、評価結果や処遇に対する社員・職員の皆が納得できることを中心に据えた人事評価制度を整備運用しています。

職業倫理及び独立性
 当監査法人は、職業倫理及び独立性に関する規程に従った責任を果たすために、当監査法人及び社員・職員、外部の業務提供者(サービスプロバイダー)等による職業倫理の遵守や独立性の保持を、品質目標として設定し、当該品質目標を達成するために、倫理規則に基づいた職業倫理の遵守に関する方針及び手続を定めています。
 監査責任者は、これらの方針及び手続を遵守するとともに、監査チームのメンバーがこれを遵守していることを確かめています。独立性については、倫理規則等で定める独立性が適切に保持されるための方針及び手続を定め、品質管理担当責任者は、毎年7月1日現在並びに新規監査契約締結時や職員の新規採用時において、被監査会社の一覧を提示し、独立性が要求される全ての社員・職員から「監査人の独立性チェックリスト」を提出させて、独立性に対する阻害要因の有無を調査し、独立性が保持されていることを確認しています。 監査契約の更新時や審査時には、業務執行社員による監査チームの独立性の確認と品質管理担当責任者による審査担当者の独立性の確認を実施しています。
 監査業務の主要な担当者の長期間の関与に関しては、当監査法人の「担当者の長期的関与とローテーションに関する方針」に従い、「ローテーション管理表」を作成し、公認会計士法等及び職業倫理に関する規程を遵守しています。
 公認会計士法上の大会社等のローテーションは、以下のように定めています。

適用対象者最長継続関与期間インターバル期間
筆頭業務執行社員7会計期間5会計期間
業務執行社員7会計期間2会計期間
その他、監査業務の主要な担当社員等で監査業務の重要な事項について重要な決定や判断を行う者7会計期間2会計期間
社会的影響度が特に高い会社(時価総額が概ね5,000億円以上の大会社)の監査業務チームの構成員監査補助者から連続して同一のクライアントに業務執行社員と就任する場合は補助者時代を含めて合計10会計期間2会計期間

(報酬依存度)
 監査業務の依頼人に対する報酬依存度について、当監査法人の「報酬依存度の算定及びセーフガードの適用方針」に従い、監査業務の特定のクライアントに対する報酬依存度割合を算定し、2期連続して報酬依存度が15%を超えることが予想される場合にはあらかじめ、セーフガードを適用することとしています。

(非監査業務の提供の方針)
 公認会計士に対して監査以外の非監査業務の提供に対する社会的要請がある以上、監査業務で培ったノウハウを基に、監査法人が非保証業務を提供することは社会的な貢献に繋がると考えています。また、監査以外の視点から事業や会計を見る機会を得ることができ、非監査業務を通じて得る幅広い知識と経験は、監査能力の向上、監査品質向上に繋がると考えています。当監査法人は中長期の経営方針として監査業務を中心に業務を実施していく方針ですが、上記の理由により、職業倫理及び独立性の遵守に影響を及ぼさず、かつ監査業務の品質に支障がない範囲で非監査業務を実施する方針です。非監査業務の独立性の懸念に対しては、新規監査受嘱時に独立性の確認を行い、年に一度独立性の確認チェックリストを用いてクライアントからの独立性を確認しています。また、非監査業務間の利益相反等の防止については、非監査業務を受嘱する際に、担当する社員が責任を持って利益相反がないことをチェックし、品質管理担当責任者が確認しています。

監査契約の新規の締結及び更新
 財務上(報酬や事務所の利益など)及び業務上(成長や戦略的方向性など)の優先事項が、監査契約の新規の締結及び更新にあたり、不適切な判断に繋がらないために、また、監査契約の新規の締結及び更新の後に、当該契約の解除に繋がる可能性のある情報を把握した場合に対処するために、監査契約の新規の締結及び更新に関する品質目標を定め、当該品質目標を達成するために、監査契約の新規の締結及び更新の手続及び方針を定めています。
 監査契約の新規の締結においては、監査契約受嘱のフロー、監査業務新規手続チェックリスト、新規監査契約受入リスク評価書、監査業務新規受託検討結果要約書などの所定の様式に従い、監査責任予定者が被監査会社等の規模、事業内容及び企業環境、財政状態及び経営成績、経営者の誠実性やガバナンスの状況(不正リスクを含む。)、内部統制、契約条件等を検討し、併せて当監査法人の規模及び組織、当該監査業務に適した能力及び経験を有する社員・職員の確保の状況を考慮して監査契約の新規の締結の可否を判断し、その判断の根拠資料を品質管理担当責任者が査閲して、経営委員会、社員会に新規監査契約の受嘱の可否を報告し、受嘱する場合は、社員会の承認を得ることとしています。
 監査契約の更新については、当該契約を担当する監査責任者が、事業内容及び企業環境、財政状態及び経営成績、過年度監査業務実施中の把握事項並びにその他重要な影響を及ぼす事項等を勘案し、監査契約の更新に伴うリスクの程度を評価しています。評価されたリスクの妥当性について、審査会(2024年1月以降に監査契約をする会社等の場合は、レビューパートナー)が審査を実施し、審査会の承認を得なければ、契約の更新は認められません。監査契約の更新に関する審査結果は、経営委員会、社員会に報告されます。

業務の実施
 監査実施の責任者及び監査業務に従事する補助者による責任ある業務遂行・補助者に対する適切な指揮、監督及び監査調書の査閲・職業的専門家としての適切な判断並びに懐疑心の保持及び発揮・監査業務に関する文書の適切な記録及び保存に関する品質目標及び専門的な見解の問合せの検討及び監査上の判断の相違の適切な解決に関する品質目標を定め、当該品質目標を達成するために、監査業務の実施に関する方針及び手続を定めています。この監査業務の実施に関する方針及び手続には、監査実施の責任者による監査チームへの指揮及び監督、監査調書の査閲、職業的専門家としての適切な判断並びに懐疑心の保持及び発揮、専門的な見解の問合せ、監査上の判断の相違、監査調書の記録及び管理・保存、監査法人内における監査責任者の全員の交代等を含めています。

(専門的な見解の問合せ)
 監査チームのメンバーは、判断に困難が伴う重要な事項や見解が定まっておらず、判断が難しい重要な事項に直面した場合には、速やかに監査責任者に報告し、監査責任者は、報告された事項を必要に応じて他の監査チームのメンバーとも討議して検討します。また、当該事項を審査会に事前に相談し、さらに必要と認められれば、当監査法人内外の適切な専門的な知識及び経験等を有する者に問合せ、入手した見解を検討することとしています。

(監査上の判断の相違)
 監査チームのメンバーは、監査上の判断の相違の生じるおそれのある事項を認識した場合には、速やかに、監査責任者に報告するとともに、適時に、監査責任者は審査会に事前相談を行います。監査責任者と審査会との間の監査上の判断の相違が解決できない場合には、品質管理担当責任者は、当監査法人内外の適切な専門的な知識及び経験等を有する者に専門的な見解の問合せを行い、監査上の判断の相違を解決します。

(監査調書の管理及び保存)
 監査報告日後、監査調書の最終的な整理、監査調書の管理・保存や廃棄に関する方針及び手続を「監査の品質管理規程」、「監査調書の作成・編綴要領」に定めています。監査調書は、監査報告書ごとにまとめ、監査報告日から60日以内に整理完了することとしています。監査調書はシステム的、物理的にアクセスが管理されており、保存年限が到来した監査調書は、監査関与先のリスク等を勘案の上、監査責任者は、品質管理担当責任者の承認を得て、廃棄するか、保存年限を延長するかを決定します。現在、紙による監査調書の管理と並行して、電子監査調書システムを導入しており、徐々に紙での監査調書をなくし、電子監査調書へ移行することで、さらなる監査調書の管理及び保存の厳格化と効率化を図っていきます。

審査
 「審査規程」に従い、全ての監査業務について、監査計画並びに監査意見形成のための審査を実施しています。審査は合議制で行い、監査意見の審査が完了するまで監査報告書を発行することを禁止します。審査会委員は、当監査法人の社員とし、審査員としての適格性を確認した上で選任しています。
 なお、2024年1月以降に監査契約をする会社等の審査については、今までの会議体方式をとらず、審査対象となる監査証明に係る業務執行社員以外の特定の社員(1名)により審査を行うレビューパートナー制へ移行しました。レビューパートナーによる審査は、今までの合議制による審査と同様に監査計画、四半期レビューの結論及び監査意見について行われ、監査意見の表明前だけではなく、監査業務全体を通じて適時に適切な審査が行われます。
 また、当監査法人では、監査意見を形成する過程で、重要な事項について事前審査制度を設けており、事前審査必要事項に該当する事案があれば、レビューパートナーにより事前審査を受けることが義務付けられています。
 公認会計士法上の大会社等のレビューパートナーのローテーションについては、以下のように定めています。

適用対象者最長継続関与期間インターバル期間
レビューパートナー7会計期間3会計期間

 また、過年度に監査責任者として担当した者が同一業務のレビューパートナーに就任するには、2年以上のクーリング・オフ期間の設定を設けています。

業務運営に関する資源
 当監査法人は、人的資源、テクノロジー資源、知的資源等の業務運営に関する資源の取得又は開発、維持及び配分に関する品質目標を定め、当該品質目標を達成するための方針又は手続を定めています。

人的基盤について
 監査法人の最大の経営資源は“人材”であり、当監査法人が今後も持続的な成長をするためにはさらなる人材の確保と育成が必要です。
 当監査法人の経営者である社員は、縁があってこの業界で一緒に働くこととなった一人ひとりを大切にし、必要な専門的知識や職業倫理、業務に必要な技術の習得の機会を与え、クライアントに対して真心のこもった専門的サービスを提供できるような人材に育てていく使命があります。そしてそういった人材が長く事務所に勤めてもらえるような職場環境を整備する使命があります。このことを各自自覚し、社員全員でよく考え議論をしながら他の監査法人や業種にない魅力、特色を持った、働きやすい職場環境の整備を促進していく覚悟です。
 当監査法人は、創造性や独自性、熱意、イニシアチブを歓迎します。一人ひとりの社員・職員が責任感を持って自ら考え行動し、監査の厳しさとともに、監査の面白さ・やりがいを強く感じることができるように、当監査法人で監査業務に深く関わって会計・監査の専門家としてのキャリアを積んでもらいたいと思います。

IT基盤について
( ITに関する基本方針)
 IT部が中心となり、監査業務におけるITの活用とサイバーセキュリティに関する中期方針を決めています。IT部は当監査法人のITの活用状況やセキュリティの現状と更なる業務の効率化やセキュリティ強化の必要性を考慮し、IT中期計画を策定し必要な投資額を予算化して、法人全体の中期事業計画に織り込み、IT基盤の強化に取り組んでいます。
( ITの活用状況と情報セキュリティ対策)
 多様な働き方の実現として、リモートワークが可能な通信環境、監査調書等を共有するファイル共有サーバー、クライアントとのデータの授受のためのクラウドストレージ、業務の効率化に資するコミュニケーションツールを導入しています。現在は、電子監査調書システムの導入を進めています。
 監査手続におけるIT活用として、CAAT(コンピュータ利用監査技法)ツール「THUMGY Data® for Analytics」を導入しています。THUMGY Dataではスクリプトによりデータ加工や抽出作業を自動化できるため、クライアントの膨大な仕訳データからも効率的に異常項目を抽出することが可能です。
 情報セキュリティ対策として、パソコン操作及びメール送受信の監視ソフトやPCのハードディスクの暗号化ソフト等を導入しています。当監査法人の社員・職員によるパソコン操作及びメール送受信は動作監視ソフト(SKYSEAクライアントビュー)により常時監視され、内部での情報セキュリティリスクに対応しています。事務所のLAN環境と外部環境との間にはFortiGate社のファイアーウォール機器を設置しており、外部からの侵入を防ぐと同時に不正アクセス状況を常時監視しています。当監査法人で使用する全てのパソコン(サーバー含む)にはウイルス対策ソフトが導入されており、パターンファイルは自動的に常に最新状態に保持され、定期的にスキャンする設定としています。PCのハードディスクについては暗号化されていますが、さらなるセキュリティ対策としてPC紛失等による情報漏洩を防止するためPCのデータレスクライアント化を進めています。

情報と伝達
 当監査法人は、品質管理システムの整備及び運用を可能とするため、法人内外からの適時の情報収集、法人及び監査チームによる法人の内外との適時の伝達に関する品質目標を定め、当該品質目標を達成するための方針又は手続を定めております。
 法人内外からもたらされる情報に対処するために、職業的専門家としての基準及び適用される法令等に従って監査業務が実施されなかったこと、当監査法人の方針若しくは手続が遵守されなかったこと、不正リスクに関連して当監査法人に寄せられた内外の情報を受け付けることに関する不服と疑義の申立てを受領し、調査し、また解決するための不服と疑義の申立てに関する方針及び手続を定めています。この方針及び手続の一部として、社員・職員が不当な取扱いを受けることなく不服と疑義の申立てを行うことができるように、明確に定められた内部通報等の制度を定めています。

品質管理システムのモニタリング及び改善プロセス
 当監査法人は、リスク・アプローチに基づく品質管理システムの整備及び運用が適切に行われるために、品質管理システムの整備及び運用の状況に関する情報を適時に把握し、識別した不備に適切に対処する品質管理システムのモニタリング及び改善プロセスを定めています。
 このプロセスにおいて、当監査法人内のモニタリング、改善活動の実施、法人外部からの検査及びその他の関連する情報から得られた発見事項の評価を行い、不備を識別した場合には、識別した不備の重大性及び影響を及ぼす範囲を評価し、適切な改善に繋がるよう、根本原因(特定の不備に関する直接的な原因や、複数の不備に共通した原因について、原因が生じた原因を検討・分析することで究明される、不備の本質的な原因)を調査・分析し、不備の根本原因に対処する改善活動を実施します。効果的なモニタリングと改善を可能とするため、監査実施の責任者に対しては、法人から伝達されたモニタリング及び改善プロセスに関連する情報を理解し、実施する監査業務への影響を考慮して適切な措置を講じることとしています。また、監査実施の責任者が、モニタリング及び改善プロセスに関連する可能性のある情報を入手した場合には、必要に応じて法人に伝達することを求めています。

監査事務所間の引継ぎ
 監査人の交代に際して、前任が当監査法人となる場合及び後任が当監査法人となる場合の双方について監査業務の引継が適切に行われることを合理的に確保するために、監査人の交代に際する方針及び手続を定めています。